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どのくらい、眠っていたのだろう。
起きた瞬間から泥のような疲れを感じて、ライエはため息をついた。
仰向けに、立派な絵が描かれたベッドの天井から目を背けて背中を丸めて、あちこち体が軋むのに眉を寄せる。
(特に、腰が……)
なんだか、すごかった。
ずっと自分を掴んで離さなかった大きな身体を思い出して、そこらじゅうを転がり回りたくなった。
一度目は必死だったし、二度目は触られるだけだった。
今回は心に余裕ができたせいか、かの王に抱かれたのだということが、じっくりと分かってしまった――必要以上にいろいろされた気がするが。
あんなことを、毎回。
身も心も持つのか心配になってくる。時間が経った今でも起き上がっただけでみしみしと骨が外れてしまいそうだし、大きな手の感触を思い出して逃げ出したくなるのに。
「はあ……」
声になりそうなほどのため息をもう一度吐いて、ライエは今度こそ起き上がった。おそるおそる脚の間を自分で触れて、乾いているのを確認してほっとしながら首をかしげた。ちゃんと、王はライエに入れたはずなのに。
サイドテーブルの上にガウンがある。それを羽織って、寝室を出る。
扉を開けたとたんに、目を刺すような光がある。もう昼間らしい。
テーブルについてなにやら見ていた付き人の二人が、あわてて立ち上がった。
「ライエ様」
クラリスが心配そうに駆け寄ってくる。
「どうしたの」
「いえ、ずっと眠っていらっしゃったので……こちらに」
ほっそりした手で示された所に、昨日までなかった長い椅子がある。クッションがこぼれ落ちそうなほど載った、やはり高そうなものだ。
気後れしながらそこに腰かけると、クラリスは、お飲み物は、なにか欲しいものは、と落ち着きなくテーブルに戻っていく。
「ライエ兄……」
ハリスが、どこかしょんぼりとして近くによってきた。
「うん?」
「……オレな、分かってなくて、ごめん」
「なにが?」
問いかけても、無言でうつむいたままだ。
「その、ハリスは……昨日、こっそりお部屋にもどってしまって」
クラリスが水の入った杯を差し出しながら、代わりに言いづらそうに説明してくれた。
それで、ようやく、ふたりが何を言いたくて、言えないのかを知ってライエも一瞬言葉を失った。
もう一人の弟のカレントは、一言二言でライエの置かれた状況を理解してしまっていたが、ハリスにはちゃんと言ってはいなかった。言い出せなかった。
鍵をかけていて本当によかった。ひどい姿を見られずに済んだ。
「ごめんな、ちゃんと言っとくべきだったな」
ハリスはいつもの元気は隠して、口をつぐんだま寝室の扉を見た。
その手をそっと握ると、青い目に涙が浮かぶ。
「ハリス?どうした」
「ケリー兄が言ってた、オレたちのせいで、ライエ兄が王様のところに行ったって」
なにか、ひっかかる言い方でライエは首をかしげた。
ハリスは目を潤ませながら、こちらを見た。
「お、オレたちのせいで、あんなこと、ムリやりに」
「―――ん?」
おかしい。
ここでようやく、馬車でのカレントとの会話を思い出して――ハリスが、勘違いしていることに気がついて、 ライエは固まった。
ハリスの横で、クラリスまでも、悲しげに顔を伏せている。
彼女も、だったらしい。
「待って、待ってくれ。なにか、ちょっと違う」
どうすればうまく言えるのか、あわてたせいでうまく言葉にできない。
つまり、ハリスとクラリス、ついでにカレントも、ライエが無理矢理連れてこられて、無理矢理国王の愛人にされたのだと、そう思っているようだ。
なぜだ。
「ええと、その、無理矢理とかじゃ」
「え……?」
クラリスがきょとんとした。
「その、いきなりだったけど、俺は自分で陛下に付いていって……その、されたし、お前たちだって、王は好きにすればいいと言ってくださって、ここに連れてきた」
「え、え……王妃様には、そんなことおっしゃられなかったではないですか」
「最初に会ったときか?アテイ様に言えるわけないよ……ちゃんとした王妃様に、俺は国王の愛人になったのでこれからよろしくなんて……」
だんだんと、クラリスとハリスと表情が変わっていく。なんとなく、あきれているように見える。
言うなら――「心配して損した」。こんな感じだろうか。
「ああ……カレントも?しまった」
「兄らしいよ、もう」
頭を抱えたライエを見て、ハリスはみょうに大人のような口調だった。
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