波風

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(※このページには男女カプの過激なシーンがあります、ご注意ください)  国王が乱心された。  そのような不敬な噂は教会にも流れてきた。  貧しい若い男を拾い、うつつをぬかしているらしいと。  けれど、あの陛下に限っては乱心などという言葉はあまりにも似合わない……司教はそう思った。  シグムンド陛下は幼い頃から聡明で、およそ何にも心を惑わされない健全な精神を持っていた。故に神への信仰はほとんどなかったことは教会の悩みであった。  しかし、国王は祈ることはないが、だからと言って他人の救済には寛容だった。  今回のように。  この教会のすぐそばの、貧民街の改善。  一大事業になるこの改革を断行した王が、まさか乱心したとは思えない。あの冷静沈着な王妃もいるのだから、何も心配することはないだろう。  王城からの使者がこの教会に到着したと聞き、執務室から出た。  今回の責任者だと聞いた。ずいぶん前に国が教会に協力を申し出てきていたが、ようやく着手するようだ。どうやら高官ではないらしいのだが、国王からの推挙であるから間違いはないだろう。  礼拝堂の一番前の、天窓の光が当たる席にその若者は座っていた。使者だろう彼を目に止めて、司教は驚きに目を見開く。  見知った顔だった。  珍しい黒髪をした、痩せ気味の青年。ゆっくりと立ち上がり、照れ臭そうな表情で笑いかけてくる彼は、ほんの数ヵ月前までこの教会に施しをもらいに来ていた。  彼の弟は勉強熱心で、説教や講談にもやってきては礼拝堂の隅で聞いていて、彼はよく付き合わされていた。だから覚えている。  良い青年だったから、天の父の元へと旅立っていったのかと思っていた。  ぱったりと、姿を見なくなったので。 「お久しぶりです、神父様」  身なりもよくなって、いまにも倒れそうな痩せ細りではなくなった。  無意識に、胸元のロザリオを握り、十字を切る。  小さな奇跡だった。  王妃としての責任をほとんど果たせていないアテイに、慈悲深い王はあきれはしたものの変わらぬ温情を下さっている。  体をまさぐる手は急いではいるが、決して乱暴ではない。優しくされている。  唇を貪られる合間に、お早く、と腕と脚を大きな体に絡める。王は目を細めてアテイの腰を抱き、そうしてそこへ自分の太いそれを重ねた。  がつがつと奥に王が入ってくる。アテイは腹からじんと痺れるような官能を覚え、声を殺しながら体を反らす。無駄な肉などない、雌鹿のようなしなやかな肢体。  国王は汗にまみれた顔を歪めて、ぶるりと身を震わせ――なんとか妃の体を引き離す。  濡れた蜜壷から、内壁を擦ってまだ太い欲望がずるりと出ていく。 「あっ……」  切なそうな声を上げて、アテイは戦慄きながらシーツに沈む、その日の当たらない白い下腹に真上から国王の放つ精が勢いよく散った。  余韻が長引いて、みじろぐこともできない。気だるさに、まぶたを開くこともできない。王は構わず、何が面白いのか小さく笑い、アテイの腹を上からなぞる。そこに撒かれた欲望を広げられるねっとりとした感触に、また体が震えて、陛下、とかすれた声で非難すればまた笑ってごつごつした手が離れていく。 「……ありがとうございました」  ようやくちゃんと口が回るようになって、アテイは体を起こして王に伝える。  子を待ち望む周囲や、自身の望みも押して、アテイの意思を尊重してくれる。戦争が終わるまで、将軍の責任を全うしたいと、ここまでくれば意地になっている。 「よい」  鷹揚にうなずいて、王はアテイを抱き締める。アテイは武人だ、柔らかさも少ない体躯は楽しくもないだろうと思うのだが、まったく王は気にしていないようだ。  そのまま、今日は帰してくれないようだ。背に太い腕が回ったままシーツに潜り込む。  けれど、閨には不似合いな話題が寝物語である。 「……防衛線の補填は、いつ頃完了する?」 「明後日には第二部隊が発ちます。荷の積込で少々手間取りましたが、問題はないかと」 「うむ、だが、この調子なら……」 「ええ。……第三部隊も、内々に設立準備をしております」  隣国との小競り合いが活発になっている。小康状態とは言いつつも、人員の増強は急務だが、隣国はなにかとうるさい。人を送れば言いがかりをつけて、また大規模に戦闘を仕掛けてこないとも限らないのだ。  結果、消耗戦のようになっている。負けはしない、けれど、無用に人命を失わせている気がするのだ。  焦りがある。顔を曇らせたアテイを、そっと撫でて王は宥めた。 「耐えてくれ。何か道はあるはずだ」 「はい。申し訳ありません」 「謝ることはない」  王はそう言うが、アテイの責任は大きい。  王にも、そして、側室となった青年にも。  戦争にかまけているアテイでは、王を慰める役目をおろそかにしがちだ。  ――ライエを連れて帰り、王が寝所を訪ねたときいたとき、ほっとしたのは否めなかった。  自分のほかにも、この王に寄り添える存在が出来るのかと。  それは、あの青年に自分の責任を押し付けただけではないのか。そんな疑念はずっとある。  ライエは、王の側に置くに申し分ない人だ。アテイ自身気に入っている。だからできる限りのことを彼にした。けれど、それに、負い目は含まれていないのか、考えてもわからなかった。 (はやく、戦争を終わらせなければ)  どこまで陛下は知っているのか、そう怖い顔をするな、とおどけて、アテイの頬にあたたかい手を触れた。
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