ムテキ君の無敵な話

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ムテキ君の無敵な話

 ムテキ君、というのは私が飼っているワンコの名前である。  オスで、犬種はパグ。愛嬌のある、潰れた顔が特徴のあのワンコだ。母がペットショップで一目惚れして購入した犬で、日本語を盛大に間違えた母が“可愛すぎてとっても無敵ね!”と読んだら嬉しそうに吠えたのでその名前になったらしい。それを言うなら素敵ね、ではないのだろうか。まあ、母が楽しそうで本人(本犬?)もなんだか嬉しそうだったからそれでいいのだが。  パグやフレンチブルドックといった類の、“顔ぺっちゃんこ”の犬を飼ったことのある人はお分かりかと思うが。これらの犬は、同じ顔の潰れ具合でも大きく差があるものだ。比較的オス犬の方がぺっちゃんこ具合が激しいことが多い。そして、そのちょっと不細工にも見える顔が可愛い!とファンの間では大評判なのである。  ただし、柴犬のようなキツネ顔の犬と違って、顔がぺたんこにつぶれた犬は鼻から喉までの距離が短く、結果暑さに弱いという問題がある。家の中で飼う場合でも、夏場は冷房をある程度かけたままにして出て行った方がいいのだ。我が家のムテキ君、も例に漏れず暑さに弱いため、必ずある程度まで家を冷やしてから仕事に行くことにしている。私、父親、母親の三人暮らしの一軒家。母も短時間とはいえ仕事をしているので、日中だれも家にいないこともざらにあるのだ。  まあ、我が家のムテキ君は、愛嬌はあるものの非常にマイペースであり、寂しがり屋でもないので家に一人の時間があってもわりと平気であるようだが。特に、私に対する塩対応ぶりといったらない。ただいま、と言って帰ってきても大抵出迎えてくれることなどないからだ。御飯をくれる母相手には、短い尻尾をちぎれんばかりに振って寄っていくくせに。 「お前さあ、もう少し飼い主への敬意というものを持った方がいいと思うわけよ、私は」  犬というものは大抵、散歩に連れて行ってくれる人か、その家で一番地位の高い人になつくことが多いと聞いたことがある。  しかし食いしん坊のこの犬は、1にごはん2にごはん、3、4も5も全部ごはん!といった有様だ。ごはんをくれるなら誰にでもなつくし尻尾を振る。少しは犬としてのプライドはないのだろうか。  ちなみに私に対して態度が非常に生ぬるい理由は、ちょっと太ってきたムテキ君に対して御飯を控えめにしかあげないためであろう。まあ、風呂に入れる担当も私であるせいで、滅茶苦茶嫌われたというのもあるのかもしれないが。 「たまにはね、私が帰って来た時に嬉しそうに出迎えてくれたらいいなと思うの。わかる?」 「ばふー」 「ばふーじゃないよばふーじゃ。あと、作業している時に限って足下に来てしれっと邪魔してくるのもやめていただきたく。お前は猫か」 「ぶふ?」 「……お前微妙に理解できてるだろ、なんでわかりやすく視線逸らしてるの」  たまに、ムテキ君は人間の言葉が全部わかっているのでは?と思う瞬間がある。今がまさにそうだ。抱き上げてお説教してやったら、絶妙なタイミングで声を漏らすし視線を逸らしてくるのである。普段はぐーたら寝ているか飯食ってるかのどっちかばかりなくせに。本当は頭が良いのやら、悪いのやらだ。
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