星のランプに手が届く。~君野二葉~

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 今尚、項垂れる女を自撮り棒女が膝を抱えて覗き込んでいる。背中を擦りながらも大きな声でケラケラ笑う姿が妙にしっくりくるのが可笑しい。  自撮り棒女はリーダーの腰に両腕を巻いて人込みへと消えていった――。  視線を戻すと、先程の体格のいい男が酔った女を背負い始めている。  すごく単純な作業のように見える。  女のバックは短髪男が持っている。  彼らもまた雑踏へと踏み出していく。  急いでノートパソコンの電源を落とした。  エスカレーターを速足で駆け下りたのは、ここ一年間で3回目のことだ。  私には知る必要がある。そう、これは小説を書くための行動。彼らの後を追ったのだ。  結論から言うと、酔った女一人と男二人はラブホに入っていった。  ――小走りの私は少し興奮していたのか、気付くと彼らに近付き過ぎていた。2、3歩後退りしてから顔を起こすと、背負われた女のスカートが捲れ上がり魚の腹に似た白い太ももが、ちらちらと光って見えた。  並んで歩く短髪男は白桃みたいな女の尻を終始、丁寧に撫でている。時折、その奥にまで指を入れる。そして大方、それは濡れているのだろう。その都度、鼻先に当てて匂いを嗅いでみせた。  すれ違う人達は異常に思える彼らを振り返ろうとしない。彼らは一定の速度で熟知したこの街を何らかの確信を持って坂道を上がって行くようだった。
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