109人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
ただ、思いの外、冷静である。
目に映る情景に違和感を全くと言っていいほど覚えないのだ。
この街には許容範囲なのだろうか。彼らが周りを気にすることなくHOTEL B‐INNに入ったのを確認すると、すっと踵を返してTSUTAYAに戻って行った。
いったい何を見たかったのだろう。
一階にあるスタバ店員がカフェモカを作っている。マグカップに牛乳を注ぎながら、お客らしきスーツ姿の男性と談笑する。
彼女は黒髪を後ろで綺麗に束ねて空豆を剥いたような顔で笑う。
私はいつもの渋谷が見える席に腰掛けて、彼女のイッタ時の顔を思い浮かべてみたものの、案外、興奮しないのが不思議だった。
再び携帯を手にして今度は電源を落とした。久保あきらはキーボードに出だしの文書を打ち始める。
今しがた起きたことを回想しながら綴っていると、その違和感が文字を並べる画面越しに行き成り飛び込んできた。
瞼を閉じても、りんりんと輝く太陽が、そこにはっきりと分かる感じだった。
……何かある。言いようのないものを渋谷の雑踏に見つけたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!