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溝口水晶の憂鬱
2018年 11月5日
「ねぇ、スイショウ。渋谷区の同じ女子校の生徒が相次いで自殺したの知っている?」
整頓された机の上に肘をついて葉山祥子が口にした。今日必要なものしか置かないが口癖の彼女は若くしてデスクとなったやり手である。
タイトなスカートから伸ばした脚を頻繁に組み替えている。行動心理学的に言えば隠し事など何かを抱えているらしい。
そして、ショートボブの毛先を指先で捏ねながら続けた。
程よい肉付きの腕には男物のROLEXがある。70年代のサブマリーナーだ。
「なんでも、この1ケ月の間に続けて3人が飛び降りたみたいで、記者の間ではウェルテル効果ではないかと、ちょっとした騒ぎになっているの」
入社4年目の溝口水晶は、葉山からの問い掛けに戸惑っていた。分かる質問とそうでない質問とが混在していたからだ。
葉山を前にして、起立したままスマホを取り出して検索し始めた。
「おいおい。ちょっと待って。まずは言葉にして。なに世代だよ、君?」
「あっ、すみません。前者は知っています。あと、後者は只今、検索中です」
溝口水晶は某有名大学を首席で卒業したエリートだった。
――「読んでみて」葉山が言う。
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