溝口水晶の憂鬱

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「そうね。確かにその辺は、ちょっと腑に落ちないわね。何かしらの情報統制があるのかも。詳細な死体の検証も行われなかったようだし。さっと幕引きを図った印象……ただ、それでも今回は、それ以上に興味深いのよ」  彼女の虹彩がゆっくり端の方へと動いた。恐らく核心に触れ始めるのだろう。 「始めにビルから飛び降りた高2の少女は、君野二葉といって学園では孤高の存在で一種カリスマだったらしいのね。見た目もアイドル並み、いやそれ以上で、多くのプロダクションから誘われていたようだし。また成績も超優秀でね、誰にも媚びることなく、先生にも一目置かれていたみたいなの。それにね……」  僕は葉山デスクを見つめながら瞬きを我慢した。言葉を待っている。  ――「彼女、聾唖者だったの」  その彼女の言い回しに妙な違和感を覚えた。「聾唖者」という言葉ではなく、その前の「それにね」っていう接続詞が原因だった。 「何か聾唖者であることが、彼女のカリスマ性に輪を掛けているような言い回しですね」  葉山はすぐには答えなかった。肘を机について掌に顎を乗せて考えている。細い人差し指が数回、頬を打つ。答えは手元にあるけど迷っているようだった。  正しいかそうではないかを別にして、彼女は常に答えを持っている。その迷いは質問に対する答えではなく、言うか言わざるべきかの葛藤である。  遠くを見るように目を細めた。まるで独り言のようだった――。
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