星のランプに手が届く。

2/7

109人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
 歌舞伎町の人込みを抜けて、1丁目のドンキの裏手を真っ直ぐに行ったところ高速道路の高架が見えてくる。それを超えて乱雑に入り組んだ住宅街の中にそのビルはあった。  都会のエアスポットの如く、辺り一帯は、まだ日が高いにも拘わらず道路は湿ったように黒ずんで映った。  両脇に並ぶ建物は比較的古いようで、所々に空き家も見て取れる。人通りも少なく、車の往来もさほど目にしない、まさに閑散とした場所である。  また、息苦しい感じを与えたのは、無数の電線が蜘蛛の巣の如く空を覆っていたからであろう。  久保あきらは剥げかけた歩行者線の上を辿るように、そのまま進んで個人商店の脇にある細い通りに入っていった。丁度、空き地の横に見える鈍色の壁がそうなのだろう。殆ど名前の記載がない郵便ボックスの奥に幅の狭い階段が見えている。  ○○事務所、そのイメージとは程遠いもので、505号室は外観も当然アパートの一室みたいで生活臭が漂うようだった。  勿論、看板などは見当たらない。ドアは閉ざされていたが覗き穴から漏れる光と人の声に、一応は営業中であることが分かった。呼び鈴を鳴らした。    30秒経ってからL字型のドアノブを回す。事前に指示されたことである。「鍵は掛かっていないので、ご勝手にどうぞ。向かって右の部屋にいます。但し条件があります。その部屋に入るときは、一旦、ドアの前で足を止めて、瞬きをせずに、そのまま30数えてからお入り下さい」  携帯を取り出して、そう書かれたメールを読み返した。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

109人が本棚に入れています
本棚に追加