星のランプに手が届く。

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 ドアを開けると、もわっとした異国臭が鼻を突いた。  顔に熱い吐息を掛けられたようで、嘗て仕事でアジアの空港に降り立った時のことを思い出す。それは赤道が近くにある国特有のものだった。西日が射す中、随分と急なタラップを降りていったのを憶えている。  久保あきらは中へと足を踏み入れた。靴を脱がないのも約束事の一つである。  そこはぬるく冷房の効いた8畳程のフローリングで、天井から吊るされた4つの丸い蛍光灯がやけに白々しく部屋を照らしていた。  まず目に入ったのは正面にあるカーテンの無い窓越しに見えるベランダだった。物干し竿は架かっているものの洗濯物は見当たらない。  中央にある大きめのテーブルの上には紫色の小さな実を付けた植物が飾ってある。周りに椅子が一切ないのが妙だったが、違和感をまるで覚えない。  さらには机上に撒かれた数枚の白黒写真が、いや応なしに目に入る――。 『手刀で腹部を切開し、その切り口から手を入れて内臓のようなものを取り出そうとしている写真』 『人の右目に人差し指を突っ込んで眼球を弄っている写真』 『口の中から幼虫みたいなものを引き摺り出している写真』   余りの不快さに胃の奥の方から朝食に指示されたレバーが込み上げてくるようだった。  ただ、それらをどこかで見た気がする。  さらには突然、直に床に置かれた60インチのテレビから大きな音をたてて「Oasis」のPVが流れ始めた。  大方、外に漏れていたのはこの音なのだろう。  
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