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その姿を食い入るように見つめるルカに視線を移した。
緊張しているのが瞬きの多さで分かる。
体内にある物が逆流しそうなのは私も同じ。互いに掌を口に当てて小さく頷く。
すると、二葉が膝を折って靴ひもを結び直した。その見覚えのあるシューズは履き込まれたのが容易に想像できるほど元の色を変えていた。そしてやはりだが、二葉は青色のジャケットを着ている。
空を飛ぶのにジャケットって邪魔にならないの?
いつか聞いたことがある。確か、あれは瞳に映る自身に言い聞かすような手話だった。
「ただのゲームよ。だからこそスタイルは大事なの。結果なんかよりもはるかにね」
その横でルカが言葉にする。
さらに、――「わたしの好きなマンガの受け売り。でもさすがにウェルテルのように褐色の長靴は履けないわね」
そう続けたのだった。
幼少期より耳が聞こえない君野二葉は言葉を持たない。正確に言うと音としてのそれが欠けている。
ただ、そのしなやかな指先で紡がれる言葉の羅列には、どんな高尚な文章よりも煌びやかで刹那的な響きが含まれていた。
それをルカが上手に汲み取って音のある言葉に変えている。
私はそんな二人のいつものやり取りに、よく言う「密接」とは少しニュアンスの違う何かを見ているようだった。
敢えて言葉にするのなら、「両性具有」が一番相応しい気がする
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