星のランプに手が届く。

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  空想たけるは暫く黙っていた。その間も鉛筆か何かが紙の上を滑るシャシャシャという音だけが聞こえてくる。何だろう。マンガでよく見る自動書記みたいだと思った。意思とは別にその手は動いているのだろうか、迷いのようなものが、その音からは一切感じ取れない。     すると、ふと気付く。先程の写真は子供の頃、テレビで見た心霊手術であると……。   ――ああ、それはもう嫌な予感でしかなかった。汗が全身に湧いてきた。  目が段々と慣れてくると、彼が床に胡坐をかいていることが分かった。ただ、形が少し変である。よくよく目を凝らすと、ムスリムの女性がしている黒色のブルカのようなものを頭から被っている。それが小さな山のように彼を模って見せたのである。  低い声で話し始めた。 「……ご存じでしょうか。世の中にある『善と悪』、『美と醜』、『理性と信仰』それぞれを天秤にかけると、全て丁度、うまい具合に釣り合ってしまうことを……いつの世も悪魔の仕業としか思えない疫病が憚り、性懲りもなく醜いいざこざが幼子の命を奪う。信仰は必要以上に未来を煽って人々を盲目にして徒党を組ます。明らかに後者の方が蔓延っている筈なのに、何故こんなにも釣り合ってしまうのでしょうか。余りにも不公平に思えます。そうです。賢明なあなたならもうお分かりでしょう。それは死という存在を前にすると、全てがすべてZeroを掛けたように、急に重さをなくしてしまうからです。いくら跋扈して、重なり、連なり、産み、増えようとも結局は無となってしまうのです。破壊神フィリップは言いました。生を受けた時点で、既に死とは愛し合っていた。そして、その全てに於いて当然であるが故、その愛を放棄した。その証拠に貴殿は死ぬことを考えたことが有りますでしょうか? つまりは……」 (※後に分かるのだが、これらは早川夭介「論記文・死生について」(民生書房)で、主人公が言った台詞を抜粋したものであった)
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