星のランプに手が届く。

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 唯々、その時は心に深く突き刺さっていたのである。 「……つまり」   糸のような声が久保あきらの唇にのぼった。 「そう、つまりは死を視点にして物事を見つめない限り、本当にあなたが見たいものが見えないということです」 (※これも「ビビを見た!」という絵本の解説で作者の大海赫が後書きに書いたものである)  それはずっと考えていたことの答えのようであった。すぅーと腑に落ちていく自分がいる。  空想たけるは言った。 「あなたは近いうちにその目を開くことになるでしょう。本当に見たいものは目に映るのではなく、あなたの脳が決めるのです。人はそれを意思とも覚悟とも選択とも言います。  さぁ、理解出来たのなら、今は目を瞑って出て行きなさい。もうお会いすることもないでしょうから……」  暫くして目を閉じてから腰を上げた。胸の鼓動がいつになく痛いくらい高鳴っている。  すると、唐突に彼の気配がしなくなったのを感じる。……はっと思い、目を開いて暗闇を探るように部屋を見回したが誰もいない。  何だか人の夢にいるみたいだった。  ただ、床には黒いブルカが抜け殻のように皺を作っている。  幾つもの汗が首筋を這ってシャツの中へと垂れた。やけに息苦しいのは気のせいなのか。  やはり、いつの間にか消えていたのである。
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