溝口水晶の人となり

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 ――「過去と現在を、ちゃんと整理しないと未来の予測が立たない。これから起こるであろうことの精度の高い図面を描けないのは記者にとって致命的なことよ」  葉山デスクに教わったことである。  ただ案外難しいものだ。最初の頃は3分も持たなかった。情報を遮断するだけではなく、そこでの思考は至難の業だ。  それでも4年も経つ今では、殆ど正確に駅に着く頃が分かるし、お粗末な蜘蛛の巣みたいなものだが、徐々に張れるようにもなってきた。  ……ただ、目に見える成果が出るのは、もう少し先のことなのかもしれない。  僕は漠然とした文字面や、その響きに引かれて神楽坂を選んだ。また後に、ほぼ東京の中心に位置していることを知ったときには、その正当性を無性に誰かに自慢したくもなった。特に、転居早々は住所を書く機会も多く、その都度「東京にいる」そのことを強く実感させてくれる街だった。  ――「3年はちゃんと我慢して、その会社で働きなさい」父は言った。    今考えると、石の収集家である彼に相応しい送る言葉だったように思う。
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