溝口水晶の人となり

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 周辺の至るところで民家が崩壊し瓦礫が散乱した。道路が陥没して、埋まっていた配線が剥き出しとなり、電柱の刺さった車が横倒しになっている。  高校まで過ごした懐かしい風景は流れ込んだ大量の土砂や、なぎ倒された木々で、その様相を絶望へと変えていた。  ――雨衣の警察官や消防隊員、自衛隊らが懸命の救出活動を行っているのを努めて俯瞰した眼で追っていると、轟音を響かせ重機が土砂を取り除いているここでは、誰もが「命の賞味期間」を鑑みて緊迫感を孕んでいるのが分かる。  すると、不意に「なんで」って言葉が口を衝く。とても自然に……今度はちゃんと意識してから「なんで、なんで、なんで、なんで……」そう何度も問い質すように口にしてみた。  何故なのだろうか、目に映る全ては吐きそうなほど煩わしいのに、まるで他人事みたいに思えてきて、ある種、絵画鑑賞に近いような気がするのだ。  ただ、その時の僕は何の絵を見ているのか分からないでいた。  禁止線の前で足を止めた。背後の山々に視線を延ばすと、その山肌が無理やり抉り取られて麓にある住宅地へと黄土色の河を広げている。それは焼けただれた人間の皮膚みたいに、そこだけが死んでいるようだ。  息を止めて、その河を目で追っていると、陥没した道路に足を取られたように傾く僕の家を見つけた。自然と涙が出た。……父さん……  
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