星のランプに手が届く。

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星のランプに手が届く。

 少女との邂逅から1ケ月程が過ぎようとしていた。久保あきらは毎晩ここで彼女を探している。ただ、溢れる人込みのこの街は一体感のあるいつもの絵画のようで、何ら一切を変えようとしない。  あの時と同じ違和感を映さないでいた。  それから2日後のこと「ある日の久保あきらのスケジュール」そうキーボードを叩いてから直ぐに指が止まった。  自分のことを客観的に書き出すだけなのに、これ程までに難しいとは……いつものTSUTAYAの2階にいた。  編集者から、――「先生、ものが書けないのは恐らく生活リズムが悪いからですよ。確かにかつては放蕩や退廃の中で名作を生みだした作家もいたでしょうけど、それはホンの一握りの天才若しくは、たまたまの産物だったに過ぎません。やはり健全な肉体、健全な精神の中でこそ、ちゃんとした考えが思い付くのです。今は、本能よりも理性の方が商売になるようですしね。どーですか。一旦、断捨離のようなことをしてみませんか」  そう言われたのが契機となっていた。これは、その第一弾で「自分の生活を見直す」為のものだそうだ。  それは暗に凡人であると宣言されたみたいで、始めは反発もしていたが流石に4年も何も書けないでいると、そう言ってもいられないように思い始めていた。しかも彼女は、その出版界では名監督よろしく「作家再生工場」の異名を持った敏腕編集者である。何人もの作家が崇めているというし、あの谷山翔吾や凛子なども一時の低迷期から立ち直った陰には彼女の存在があったと聞く。
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