星のランプに手が届く。

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 恐らくは分かっていた。書けなくなったのは密度が大きいからである。  自身が書く文章には、いくら美麗な言葉を駆使して、また技巧を尽くしてみても、その根本には必ず誤謬が潜んでいるかのよう感じられるのだ。  ようは軽いのである。あの老婆や少女の言葉みたいに、心に直接訴えかけるだけの何かが足りないのである。  才能や経験の一言では片付けられないものが、そこには確かに存在する。  ……何を書いても、もう、ふわふわとした雲みたいに漂って意味がよく取れなくなってしまう。  だから、久保あきらは自身の書いた文章で  空想たけるは言った。 「死を視点にして物事を見つめない限り、本当に見たいものが見えない」と――。  すぅーと腑に落ちていく自分がそこにいた。  それから、久保あきらの宿願は「本当に見たいものを見ること」この一点のみになっていった。  そうすることで、ペン先にその何かが加わって、あの老婆や少女の言葉さえも、見事に凌駕するほどの文章を書くことが出来るはずだから。
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