星のランプに手が届く。~君野二葉~

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5月中旬のこと   ノートパソコンを前に打つ手は止まる。  アイスコーヒーは雨水を溜めたようで、もうとても飲む気にはなれない。ストローを指で弾いていると隣で伏せていた女が大きな音を立てて席を立った。  終電はとっくに終わっている。  深夜のTSUTAYAから見下ろす風景は、久保あきらの目に渋谷そのものを映すようだった。  欲望を孕んだ一枚の、――この絵画は騒がしいのに不思議な統一感がある。  多分、バラバラだけど皆同じグループなのだろう。  ショートメールの着信音が鳴る。テーブルに裏返していた携帯を取った。  ――「29番様へ 珍しいグリーンの毛をした片足の猫を捕まえました。是非この機会にお飼い求め下さい。会員の皆様の益々のご健勝をお祈り申し上げます」  ある夜、雑踏の中、長い口付けを交わした男が自転車で交差点を颯爽と横切っていった。  掌を振り終えた女も後姿を見送りながら交差点を駅へと人込みに紛れていく。その白いワンピースの女は黒髪の頭と同じぐらいのバッグを肩から下げている。  すぅーとスーツ姿の背の高い男が近寄ってきた。並ぶようにして暫く歩くと二人は足を止めた。  男は外人が見せるような仕草で両手を大袈裟に動かしている。女は組んでいた腕をだらりと解いて男の右肩を叩いて笑う。  そして、二人して寄り添いながら渡った交差点をセンター街へと戻って行った。
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