星のランプに手が届く。~君野二葉~

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 その一方で、Free Hugsと書かれた看板の前でチェックのネルシャツを着た小太りの青年が笑っている。  金髪の白人女は掲げていた看板をアスファルトに逆向きに下ろし隣の日本の若者と談笑する。  あなたのことは見えていません。そう態度で語っているようだった。   それでも青年は白人女を見て笑っている。看板は既に意味をなさない。  青年が近づき何かを言う――。  彼らは一斉に青年の方を向いた。  3人で協議が始まったのが面白い。何語で話しているのか気になったが、暫くすると白人女が青年の背と同じ程度に膝を曲げて両手を広げた。  Tシャツの下にある豊満な胸の形がくっきりと浮かぶ。  すると、青年は躊躇なく白人女の胸元に飛び込んでいった。  私は、その体勢にテレビで見た相撲部屋の朝稽古を思った。――青年は抱き着いたままで離れない。両手を白人女の脇の下に入れ胸元に顔を埋めて擦りつけている。  さらに自身の腰をグッと引き付けてから、太もも辺りでクイクイ動かすと、さすがに堪らず白人女は顔を歪めて声を上げた。  今度は日本語ではないのがはっきりと解った。  日本の若者が、二人の首筋に腕を入れて力任せに引き離す――。青年はその勢いのまま地面に叩きつけられた。  茹でたエビのように丸まる青年の腹に白人女がスニーカーの先で蹴りを入れる。――小気味よく2、3回続けた。  周りが携帯で撮り始める。  そして汚物が付いていないかと、しかめ面で確認する白人女のTシャツには、love & peaceの文字が躍っていた。  私は思った。悪いのは一体誰なのだ。
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