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手にある携帯をテーブルに置いて、久保あきらは息をつく。
低い背もたれに寄りかかり距離が出来ると、ガラスには、ぼんやりと腕組みする自身が映っていた。
ずっと小説を書いている。そういえば昼間の風俗嬢も同じことを言っていた。
兄の書いた漫画を文章にしてネットで売っているらしい。ただ、完売したと喜んでいた彼女の顔をどうも思い出せない。
――始まる前、いつでも「かわいいね」って言う。聞こえてないのか白い背中の風俗嬢は両足の間に潜り込み膝に掌を合わせて、猫耳のカチュ―シャをした緑色の頭を上下に揺らし始めた。
視線を産毛の生え揃った首筋から背骨に沿って尾骶骨までを舐めるように何度も這わす。それから邪魔にならないように、そっと頭を撫でてから両手を輪郭沿いにそのまま頬へと滑らせて、その頬の窪みを指の腹で確認する。
ああ異物が混入している。
女の薄い皮膚越しに確かに、あんなものがそこにあるのが分かる。
久保あきらは昔からそんなことに強く興奮を覚えるのだ。
そして、女の頬の窪みがさらに深くなったとき――「なんだ。聞こえているのだ」そう思うのだった。
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