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狭い通路を足を引きずりながら駆け抜けて、目の前に立ちはだかる扉を乱暴に開け放つ。やっと、視界が開けた――と思った、その時。
「危ない!」
突如として、耳に飛び込んできた鋭い声に、コルネリアははっと立ち止まる。
そして、今までの芝居がかったそれと同じものとは思えなかった警告が、決して、コルネリアの足を止めるための嘘ではなかったことを、一拍遅れて理解する。
踏み出しかけたそこに、足場はなかった。
コルネリアの立つ床の先には、光一つ見えない昏い闇が広がるばかり。否、よくよく見ればそうではない。足元に広がるのは闇ではなく、音も立てずに寄せては返す、魄霧の海だ。夜霧を満たした海は、何もかもを飲み込む闇そのものとして、コルネリアのすぐ足元に広がっていたのだった。
そこで、初めて、コルネリアはゆっくりと振り返った。
追跡者は、コルネリアが飛び出した扉の前、コルネリアから数歩離れた場所に立っていた。そのひょろりとした長身を見上げると同時に、男の背後に築かれた「それ」に気づくことになる。
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