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壁や階段に灯された、夜霧を淡く照らす『霧払いの灯』によって浮かび上がる輪郭は、酷く歪な城塞を思わせた。だが、それが果たして正しい認識でないことは、目を凝らしてみればすぐにわかった。
ところどころが壊れて、骨組みがあらわになっている客船に、めりこむように存在する飛行艇の尾。壁に小型霧上艇の船底が露出しているかと思えば、ところどころから飛び出る羽は、複葉艇のそれだ。コルネリアと男が立っているのは、半ばですっかり折り取られた「甲板」で。視界の中で一際高く突き出した塔は、戦艦の監視塔だろうか。
その全てが、灯火に照らされて、揺れている。何かが軋むような音を立てながら。コルネリアが常に感じていた、足元の不安定さを改めて思い出す。
そうだ、これは――船、だ。
いくつもの船を継ぎ接ぎした、異形の船。
「ああ、麗しきフロイライン」
夜闇に黒々と聳える「船」を背景に、男は、両腕を広げて高らかに宣言する。
「ようこそ! 私の城、霧惑海峡の幽霊船へ!」
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