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しかも、助けられた者たちはほとんど錯乱状態で、
『深い霧の中から現れた「何か」に襲われた』
としきりに繰り返すばかりだったという。
誰一人として、己の乗っていた船を襲ったそれが「何」であるのか、正しく説明できる者はいなかった。ある者は伝承に語られる霧上の巨人であったといい、ある者は耳障りな蟲の羽音を聞いたという。突然、機関室の天井が破れて、次の瞬間に機関部が爆発した、という若い機関士もいた。当然ながら、どの証言も一笑に付されたわけだが。
とはいえ、どれだけ荒唐無稽な噂に満ちていようとも、海峡を渡ろうとする船が霧に巻かれて消えていることだけは事実であり、故に霧惑海峡と呼ばれるようになった。――と、コルネリアは聞いている。
コルネリアが乗っていた客船も、帝国本土東部の港から霧惑海峡を通り、女王国との国境に近い帝国領……コルネリアの故郷へとへと向かうところであり、そこで嵐に呑まれたのだ。それから何があったのかは、コルネリアには知る由もない。
それにしても、霧惑海峡に幽霊船が浮かんでいる、などという噂は、今まで聞いたことがなかった。
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