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「勘違い、しないで」
コルネリアは、腹に力を入れて、ともすれば震えそうになる声を、精一杯に振り絞る。
「わたしは、死にたいわけじゃない。ただ、あなたが恐ろしいだけよ」
男の表情は、背後に灯る明かりのせいもあって、コルネリアからは影になって全く見えない。ただ、男がコルネリアの言葉を意に介してもいないということだけは、
「愛らしいお顔に、険のある表情は似合いませんよ」
という、的外れにも過ぎる発言で明らかであった。
男は、高らかに足音を立てて歩み寄ってきたかと思うと、指輪が重たげに見える枯れ枝じみた指を、コルネリアの肩に向けて伸ばしてくる。その手を、コルネリアは、反射的に中空で叩き落していた。
「触らないで、近寄らないで、本当に身を投げるわよ」
「ご安心ください。船の主として、お客様を傷つけるような真似はいたしません」
「そんな言葉、信じられるとでも思ってるの?」
頭一つ以上大きな男の顎の辺りを睨むコルネリアに対し、男は髭に覆われた顎を指先で掻いてみせる。
「これは困りましたね。私が女神に誓ったところで、信じてはいただけませんでしょうし……、ああ、それでは」
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