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男の長い指が、虚空を掴むような動作をする。次の瞬間、男の手の中には一振りのナイフが握られていた。突如として現れた凶器に戦慄するコルネリアに対し、男はくるりと手の中でナイフを回したかと思うと、その刀身を摘み、柄の側をコルネリアに差し出す。
「こちらを、どうぞ」
「え?」
「もし、私が少しでもあなたに危害を加える素振りを見せたなら、これで私を刺せばよろしい」
抵抗はいたしませんよ、と言い放った男が、コルネリアの前に膝をつく。そうすることで、すっかり影になっていた男の顔が、やっと、コルネリアからも見えるようになった。と言っても、顔のほとんどはぼさぼさの毛に覆われていたし、前髪の前からかろうじて覗いているはずの目も、分厚い眼鏡に隠れていて、表情を推し量ることはできそうになかった。
何となく、その口元に笑みが浮かんでいると、わかるだけで。
「早速、刺してみますか? お好きな場所をどうぞ」
男は、どこかおどけた調子で言う。
コルネリアは震える手で、男からナイフを受け取った。手にかかるずっしりとした重さが、刀身に踊る煌きが、玩具ではないのだと思い知らせてくれる。
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