02:霧惑海峡の幽霊船

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 パンをスープに浸して、口に運ぶ。正直な感想を言うならば、そう美味しいものではない。保存食らしい保存食、といったところか。しかし、すっかり空っぽになっていた胃袋は、どれだけ味気のない食事でも、ありがたく受け入れることができた。特に、温かなスープはありがたかった。体の芯から、すっかり冷え切ってしまっていたから。  無心に食事を腹に詰め込んでいるうちに、いつの間にか、男の姿が消えていることに気づいた。そして、手元のパンが全て胃の中に収まるのとほとんど同時に、今度は手に水をなみなみと満たした盥を持って戻ってきた。 「お食事はいかがでしたか?」 「食事というもののありがたさがわかったわ」  それはよかった、と笑う男には、何ら邪気のようなものが感じられない。その一方で、煤けた眼鏡越しの視線は、コルネリアの方に向けていられないようにも見えて、一層不安を掻き立てる。  男はコルネリアの不安になど全く気づいていない様子で、盥を床に置き、腕に提げていた箱から薬や包帯を取り出しながら言う。
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