1人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやはや、驚きました。嵐が過ぎ去ったかと思えば、可憐なお嬢さんが流れついていたのですから。さながら、迷霧の人魚姫といったところでしょうか」
「流れ……、ついていた?」
コルネリアは、つい、男の言葉を繰り返してしまう。まだ、頭が上手く働いてくれない。目の前の男が、あまりにも現実からかけ離れていて、呆気に取られていた、ともいえた。
男はそんなコルネリアの反応を意にも介さず、大げさに長い両腕を広げて天井を仰ぐ。
「あなたは、よほど女神に愛されているのでしょう。あれほどの嵐に呑まれながら、怪我一つなかったのですから。ああ、女神よ、ミスティアよ、ご照覧あれ! あなたの愛が今まさに、一人の少女を救ったのです!」
ごうごうと鳴り響く風。体に叩きつけられる大粒の雨。遠くから聞こえる雷の音色。コルネリアの体は確かに嵐の激しさを記憶していて、それでいて柔肌に新たな傷は一つもないことも、自分自身で理解できていた。
けれど、けれど。
「待って」
最初のコメントを投稿しよう!