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創世の女神ミスティアと、コルネリアへの賛辞をただひたすらに並べ立てようとする男を、無理やりに遮る。すると、天井に向けて喋りかけていた男は、ぐるうりと頭をめぐらせて、コルネリアに顔を近づける。生ぬるい息が顔にかかるほどに。
つい、寝台の上で身を引いてしまいながらも、ここで黙っていては何も始まらない。男を睨めつけて、口を開く。
「ねえ、わたしの乗っていた船はどうなったの? パパは? ねえ、皆はどこ?」
その問いに、男は、ぴたりと動きを止めた。
玩具のぜんまいが切れたかのごとき、あまりにも不自然な静止。しかし、それはあくまで一瞬のことで、男は長い前髪に覆われた額を押さえて、ゆるゆると首を横に振る。
「流れ着いたのは、あなたただ一人ですよ、フロイライン」
ただ、一人。
「船も、他の乗客も、何一つ見つけることは叶いませんでした」
コルネリアは、その言葉に、強く唇を噛む。胸の中を渦巻く感情が、どれだけ表情に出ていただろうか。男は、眼鏡越しにじっとコルネリアを見つめたかと思うと、よく響く声で嘆きだす。
「何という不幸でしょう。しかし、これもまた女神ミスティアの思し召し」
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