1人が本棚に入れています
本棚に追加
背中から投げかけられる声に、コルネリアは荒い息を飲み下す。枯れ枝のような手に捕まり、長い腕で絡みつかれれば、振りほどくこともできないはずだ。その後、どのような目に遭うのか、考えることもおぞましい。
錆び付いた金属の階段を、数段飛ばしで飛び降りる。痛む足では上手く体重を支えられずに、床に転がってしたたかに体を打ちつけるが、歯を食いしばって痛みを堪え、膝をついて立ち上がる。
「銀の靴もないというのに、どこまでも駆けてはいけますまい。それとも、この先に天蓋へと飛び立つ翼が待っているとでも? いけません、いけませんよフロイライン。その翼は紛い物、霧に溶けてばらばらに崩れ去る運命です」
背中から聞こえてくるのは、コルネリアも知っている御伽話や神話を継ぎ接ぎした言葉だ。こんなもの、コルネリアの足を止める理由にはならない。
逃げて、逃げて。どこへ行こうというのか?
そんなもの、コルネリアにわかるはずもない。ここが一体どこなのかもわからないのだから。ただ、あの男に捕まってはならない。背後から迫る男に対する恐怖だけが、足を、ひたすらに前に押し出していく。
最初のコメントを投稿しよう!