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過去を撮れる転校生
昼休みの残りの少ない時間の間、
僕は、さりげなく、できるだけさりげなく、校内を歩き回っていた。
犯人捜しのためではなく、周りの反応を伺うために。
誰かがTwitterを開いていて、偶然にも僕の例の画像を見つけては、
面白半分に拡散してしまうかもしれない。
それだけは断固として回避しなければならないし、
それに、拡散どうこう以前に、もはやすでに、
ほかの学年の生徒の誰かが、この流出事実を知っているかもしれない。
そうなれば、いじめの対象になるのも時間の問題だ。
青渕は、小刻みに震える両足を必死で押さえ、
引き続き、校内をぐるりと1周し歩いた。
少しでも、自分を見てクスりと笑う者、自分を見てニヤニヤする生徒がいれ
ば、その瞬間に拘束し、今の状況説明をしたのち、拡散だけはしないよう、
すぐに協力してもらう作戦だったが、その必要もなかったようだ。
なんの違和感もなく、校内をぐるりと周回することができた。
だとすれば、、
リツイート5000件内に、この学校の生徒は含まれていない、
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン、
昼休みの終了チャイムともに、青渕は、自分のクラスへ戻るため、
その重い足を運ばせていった。
僕は、4時限目の担当する先生が来るまでの間も、
最後列の窓際隅の席で、ずっと過去の記憶を掘り返していた。
まず、あれはいつ盗撮された写真なんだ?
あそこに映っていたトイレ最中の写真。
最近トイレに行って個室を使ったのは、確か5日前。
体育の着替え写真も、最近体育の授業があったのは、3日前だ。
体育の着替え時間は、いつも男女別。
ということは、その盗撮魔の性別は男?しかも、同じクラス?
トイレ個室写真も、僕の後をつけてきたということだろうか?
じゃなきゃ、鍵のかかっている個室内に僕がいるなんて、分かりっこない。
それにどうして、、
周りの目を常に気にしている自分が、
何者かによる「盗撮」という凶行に、いっさい気付けなかったのだろう。
そしてなぜ、?
盗撮魔は、僕を狙ったのだろうか? その犯行動機がまったく見えてこない。
ぐちゃぐちゃになる青渕の頭を遮るように、
4時限目を担当する先生が、教室内の扉を開けた。
「はーい、こんにちわ。今日もーいい天気だねー、」
作り笑いのような感情のこもっていない笑みで、高橋先生は、そう呟いた。
高橋先生は、主に数学を担当する先生で、このクラスの担任でもあった。
男のくせして、ネチネチと陰湿的なものの言い方のせいか、
周りの生徒や同僚の先生、保護者までもが彼を嫌い、
裏では、スネ夫とまで命名させられていた。
そんな高橋先生が、また感情のないような表情で、口を開いた。
「ちょっと、今日は、、数学の授業を始める前に、、
少ーしだけ、お時間を頂戴したいと思います、ね。
はい!じゃ、そこのきみ、中に入って、入ってー、」
半開きになったままの教室内の前扉から、誰かの人影が見えた。
ゆっくり入ってくるその人影に、クラスの全員が瞬時に悟った。
「はい、じゃあ紹介しますねー、今日から新しくこのクラスの一員になる、
転校生の子です、はい君、さっそく自己紹介してくれるかな?」
だが、そんな転校生は、ずーっと、ぼぉーと、どこか一点を見つめていた。
高橋先生もどれだけ鈍感人間なのだろうか、
ずっと、転校生の女の子に、おーい、おーいと、声をかけていた。
けど、そんな先生の声なんて届くはずもないと思う。
だってなぜかその子は、
ピンク色のイヤホンを耳からぶら下げ、
がっつりと、音楽の世界に浸っていたからだ。
イヤホンの挿入先は、彼女の左手に持つ漆黒色のスマホにつながっており、
明らかに、その漆黒スマホからの音楽を聞き入っているかのようだった。
しかも真顔で。
そしてそのあまりに余った長いピンク色のイヤホンコードも、
重力に逆らうことなく、だらんと、下に垂れさがっていて、
その垂れ下がったコードは、くるりときれいな半弧を描き、
まるで半月を思わせるような、そんな美しい状態にあった。
だが、自分にとっては、、目の前に映るイヤホンコードも、
転校生とは思えないような、あっけらかんな偉そうな態度も、
正直、、どうでもよかった。自分の冷静な思考はすでに停止し、いやさせられ、
スクールライフは以前、絶望的な窮地にも関わらず、
僕のハートはもはや完璧に、目の前の彼女に掌握させられていた。
そんな転校生の、完成度の高いルックスぶりに。
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