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参
日が沈み、夜の主役である月が出現すれば、同時に夜空に夏の大三角を描く。街灯が少ないせいか星ひとつひとつの大きさがよく見えた。
風呂あがりの武雄は、首にタオルを巻き、縁側で風鈴の音を聞きながら、缶ビールを飲んで夜空を見上げていた。時折り吹く夜風はぬるく、武雄の身体にまとわりついてじめりと湿らせ、もう片方の手で団扇をあおいだ。これが武雄の普段の生活スタイルであったが、彼にとって普段はないイベントが今日あった。それは、ポケットティッシュを貰ったことである。
ここは、ポケットティッシュを配るほどの都会ではなく、むしろ田舎である。だから、この土地に住む武雄を含めた住民がポケットティッシュをもらうなんて滅多にないイベントなのだ。
武雄はまた、あの年若い青年のことを思い出して、はっとし立ち上がった。
「洗濯物⁉︎」
ズボンのポケットに入れたポケットティッシュをそのままにして、洗濯機に入れてしまったことに気がついたのである。
時既に遅しとは、こういうときに使うのだろう。
慌てて洗濯機まで走って行ったものの、すでに洗濯は終わっており、洗濯機の中にも洗濯物にもティッシュがへばりついていた。
「あちゃー……」
こりゃやり直しだな……。
武雄は洗濯物にへばりついたティッシュを丁寧にはがして全て取り除いた後、つぎに洗濯機の中を覗いた。洗濯機の内側にへばりついたティッシュの他にカラーで描かれた写真よりも小さなサイズの紙らしきものが一枚あり、手を伸ばしてそれを手に取る。
手に取ってわかったことだが、それの表面はつるつるしており、紙ではなくプラスチックでできていた。
「居候屋……あなたの家に居候しにいきます……って、なんだこれ?」
プラスチック状のものにはそんなおかしなことが書かれており、武雄は眉間に皺を寄せて首を傾げた。
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