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会いたいだけじゃ、ダメかな?
衝撃とその後の鋭利な痛みと。その場はもう混乱していて何がどうなっているのか自分でも把握できなかった。
「和明! おい、和明!」
ただ繰り返し俺を呼ぶあいつの声だけが記憶に残っていて──
「──お前ら【MORAL】と【KNIGHTS】のもんだな。んなトコで通行人巻き込んで暴れてんじゃねーよ」
静かに現れた黒い影が、入り乱れて戦っていた男たちを一蹴し――
「な、何だよ、また【KILLER】かよ」「わかった場所変えっから」
確か五、六人はいた筈の柄の悪そうな連中がすたこらと商店街から去って行き、ぼんやりした視界に声の主が入ってきた。
「おい、連れが救急車呼びに行ってるからな。しっかりしろよ」
飛び散るガラスの破片の中そっと膝を突いて顔を覗き込んでくる。恩人の筈なのにその輪郭くらいしか判別できないまま、俺は意識を失った。
意識が戻ってみると初めての入院生活が始まっていた。
何でも体中に刺さっていたガラスの破片を取るのにかなりの時間を費やしたとかで、どうしてあんな遅い時間に商店街にいたのかと両親と姉に散々説教された。因みにどうして全部取れたと判るのかと尋ねたら「ガラスを一枚組み立てた」と説明された。……誰がそんな難易度の高いパズルをやったのかは敢えて訊くまい。
あの時助けてくれた人はと訊いても、三人が駆けつけたときには友人の氷見携(ひみたずさ)しかおらず、携にしても全く知らない本当に通りすがりの人物だったみたいで正体は不明。
俺は礼も言えぬままもやもやと退院までの日々を過ごして、ようやく登校できるようになってから友達に訊きまくってどうにか手がかりを得ることに成功したんだった。
キーワードは、逃げて行った連中が言っていた【KILLER】。
それはどうやら俺の住んでいる襟川町周辺の峠を走っている二輪のチーム名らしい。ただ、数年前までは警察のブラックリストにも載る位に暴力的なことをしていたらしく、現在はもっぱら街中での喧嘩の仲裁くらいでしか騒ぎは起こしていないらしいけれどそれでもその筋の連中にとってはかなり有名なんだそうだ。一目置かれている存在らしい。
そしてそのリーダーやサブはもう社会人な上に殆どのメンバーもそうらしく、サーキットに行けば会えるかもしれないがもう殆ど町でのいざこざには関与していないだろうと噂されている。
中でもリーダーはメジャーデビュー目前だとかで尚更印象を悪くするようなことはやらないだろうと思われた。
何とか接点を探している内に小耳に挟んだ噂が──「メンバーのコージは今でも夜に会えることがある。どうやら星野原の生徒らしい」というやつだった。
星野原学園はこの辺りではそこそこの偏差値を叩き出す有名なエスカレーター校だ。小等部から高等部まで隣接した広い敷地内にあり、自由な校風が売りの私立。正直言うと俺も小等部は近所だからと通っていたんだけど、二つ上の姉貴に彼氏が出来てからというもの俺までが同級生にからかわれるようになり、その鬱憤を姉貴にぶつけたりして……まあ複雑なオトコゴコロってやつだ──中等部は姉貴と顔を合わせなくてもいいようにと今通っている清優学園を受験した。
正直こっちの方がランクは低かったけど一応中高一貫だったし隣の市だからまあいいかと両親も納得してくれて、そしてそこで携という友人も出来た。俺にとっては無二の親友だけどあいつがどう思っているのかは解らないから口にしたりしない。
──なんか恥ずかしいしな。
まあそんなわけで折角受験なしでこのまま進級~とのんびり構えていたというのに、この十二月になって俺が「星野原に行きたい」なんて言い出したもんだから、我が霧川家は上を下への大騒ぎになった。
姉貴は「あっちこっち目移りしちゃって……人騒がせにも程がある」って呆れ口調だし、両親は「折角の入学金が!」とか「今から受験勉強して間に合うと思ってんの!」とか散々に言ったものの、携まで巻き込み勉強に打ち込む俺の健気な姿にほだされたのか受験を認めてくれた。
しかも俺にとって追い風になったんだけど、春から星野原の高等部に全寮制の分校が出来るらしく、追加で二百人枠が増えていたんだ。今までは普通の私立だったんだけど、株式会社に変更するらしく、何かの試験的措置として全寮制の男子校と女子校が新設され、行事などは合同で行う場合もあるらしい。今まで通いだった生徒の中から寮に入る場合もあるらしく、新入生を含め六百人が寮暮らし。
悪くても行事の時にそのコージに会えるかも知れないし、うまくすれば寮で会えるかも。
どうしてそんなにその人に会いたいのか自分でもはっきり判らないまま、それでも必死の勉強の甲斐あって、俺は無事に合格した。
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