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 遠くからぱたぱたと聞こえてきた足音に、俺は顔を上げた。 「よお」  教室の出入口で立ち止まったクラスメイトにひらりと手を振る。少し寝癖のついた髪がはねている。寝起きの顔で、目を丸くして俺を見ていた。 「なに、どしたのおまえ…」 「戻ってくるの待ってた。帰ろうぜ」 「あ──うん、てか」  立ち上がり、クラスメイトのバッグを胸に押し付けるようにして渡す。両手で抱えるように彼はそれを受け止めて、俺を見上げた。 「先に、帰ればいいじゃん」  俺を見る瞼の縁に、まだ眠りの端が引っかかっている。ぼんやりと気だるげで、ブレザーの下のシャツは皺くちゃだった。緩く首に引っかかっただけのネクタイ。  見つめているのを気取られないように、俺は窓の外を指差した。 「雨」 「は?」 「傘、忘れてきた」  きょとんとした顔に笑った。 「どこの馬鹿が朝から雨なのに傘忘れんだよ…」 「朝から降ってたっけ?」  昇降口に並んで立ち、空を見上げる。突き出したコンクリートの庇からぽたぽたと落ちてくる雨のしずくがつま先にかかる。まっすぐに見渡せる校門までは、もう誰の姿もない。 「降ってただろ」  ぱん、とクラスメイトが傘を開く。差しかけたその柄を持つ手ごと掴んだ。 「わ」  ぱっと離れていく手が名残惜しい。 「おまえ、心臓に悪い」 「ああ、ごめん」  笑って、傾いた傘を彼の頭上にかざす。降る雨がはみ出した俺の肩を濡らした。 「で、なんで…眠れないわけ?」 「…え?」  ゆっくりとこちらを振り返る。 「保健室で爆睡するほど眠れないのって、なんでだ?」  雨が傘に当たる音。その下で、クラスメイトは目を見開いて俺を見上げた。
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