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7
箸が持ち上がる。
それを運ぶ指、弁当箱からひとつ、おかずを取る。
口に持って行き、食べる。それだけの行為。
「でさ、…」
ただそれだけの…
「──おい、聞いてる?」
覗き込んでくる目にはっとして、俺は摘まんだまま宙に浮いていた唐揚げを口に放り込んだ。
「聞いてる」
見惚れていたなんて言えない。
ざわざわとした教室の音が戻って来て、今が昼休みだということを思い出した。
向かい合って弁当を食べている最中だ。
「嘘つけ、じゃあおれが何言ったか言ってみて」
「え──だから、…今度の、土曜だろ?」
「土曜は合ってる」
「で、………映画?」
「ぶー!」
くしゃっと丸めたティッシュを俺に投げつける。指先を拭ったウエットティッシュだった。弁当箱の中に入りそうになって、慌てて俺は受け止める。
「展覧会! デジタルアートのっ」
それだ。
「あーそうだったそうだった…」
「全然聞いてねえじゃん」
「聞いてるよ、昼集合だろ」
残りの弁当に箸を伸ばす。向かい合わせに置いたそれぞれの弁当箱、俺のは母親の手作りだ。俺と父親と自分の分を、朝早くから作っている。
でも、クラスメイトのは、どう見ても自分で作ったようにしか見えなかった。
きれいに詰められていたけれど、何かが違う。
何か欠けている感じ。
「駅だよ、西口の改札前」
「ああ」
「おれすっごい行きたかったんだ、楽しみ」
声が弾んでいて、本当に嬉しそうに俺に笑った。
どきりと胸が鳴る。
ああ、なんか…
土曜日まで、無理かも。
「わ、なに──」
俺は指を伸ばし、取る振りをして口元に触れる。
「米」
摘まんだ振りをして自分の指を口に入れた。
「なっ…」
「米ついてた」
クラスメイトが目を見開いた。
「食うなよ、そんなの…っ」
自分の顔をごしごしと擦っている。信じらんねえ、と目を逸らして傾けた顔の、真っ赤に染まった耳元に顔を埋めたくなって、眩暈がした。
明後日の土曜日がひたすら遠い。
そのあとの午後の授業に集中できなかったのは、完全に自業自得だった。
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