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霧深き祭りの夜に
「セレス、絶対にはぐれるんじゃねーぞ」
と、言われたはずではあったのだが。
気づけば、セレスは一人、霧深い路地に佇んでいた。
あちこちから人の声と笛と弦、太鼓の音色が聞こえてくる。しかし、頭上高くに広がる天蓋はすっかり光を失っていて、目に映るのは、闇の中に浮かんで揺れる、霧払いのランタンの灯りばかり。霧を見通す「目」を持つ翅翼艇から降りてしまえば、セレスもまたただの人間と何も変わらない。
セレスは、壁を背にしてしゃがみこむ。相棒――ゲイルを見失ったのは、ほんの一瞬前だ。足の悪いゲイルが遠くまで歩いていけるとも思えない。下手に動くよりは、ゲイルが見つけてくれるのを待ったほうがよいはずだ。
蔦模様のランタンを足元に置き、ほう、と息をつく。
サードカーテン島唯一の町は、いつになく賑やかだ。普段なら誰もが眠りにつく刻限になっても、ランタンを手にした人々が談笑しながら目の前を行き交う。風に乗っておいしそうな匂いまで漂ってきて、腹がくう、と鳴った。
「セレスは、灯花祭は初めてか。まあ、時計台じゃ祭どころじゃねーよな」
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