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1話 神に嫁ぐ夜
シャン、シャン、と厳かに鈴の音が響く。
闇夜を月灯りがぼんやりと照らす中、村で一番大きなお屋敷である神田家の裏庭で咲真は真っ白な肌着のみを体にまとい、全身を水の中に沈めていた。
濡れた肌着が肌にはりつき、浮いたあばらを透かしている。もう18になるというのに女のように細い体だった。
隅から隅まで清めて来いと言われた通りにゴシゴシ肌を擦ると、あちこちある擦り傷や打撲が痛み、顔が歪む。それでもここで止める訳にはいかなかった。
「絶対に、やり遂げるんだ…」
痛む体をなんとか磨き上げて池からあがり、咲真は屋敷の一室に戻った。
体の清めが終わった咲真を、村の女たちが囲んで体を拭き、白無垢を着せる。
初めて着る触り心地のいい布に萎縮しながらも袖を通していると、白いひげを貯えた老齢の男が部屋に入ってきた。
「村長、準備が整いました」
女たちが”村長”と呼んだ男、この屋敷の主――神田信郎は口角を上げて咲真を見据えた。
「咲真、見違えるようじゃないか。これなら狼神様もお喜びになるだろう」
「ええ、女子と見紛うほどですわ」
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