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「なんて白無垢の似合うこと」
「これで村も安泰でしょう」
女たちが口々に咲真を褒め称える。
普段は叱られたり、ぶたれたりすることばかりなので、皆が口々に褒める言葉に気味の悪さを感じた。
村長の目が鋭くなり、咲真に問いかける。
「咲真、これからの事はわかっておるな?」
「…村のしきたりに従い、これから狼神様の社に行き、狼神様の嫁としてお仕えします」
「うむ。この村では50年に1度、村の守り神である狼神様に嫁御を出すことになっている。神の花嫁に選ばれた幸福に感謝して精一杯務めなさい」
数世代前から村を守り続けてくださった狼神様――。
咲真が知る限り、この村が不作だった年はない。
物心ついたときから、お前なんかが食べていけるのは狼神様のおかげと言い聞かせられていた。そんな尊い神様にお仕えできるなんて、こんな何もない自分にはありがたいことだとも言われた。
御伽噺で聞かされていた、優しい神様。
咲真にとってはずっとずっと、神様がいることが希望だった。
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