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「あの…俺は男だけど本当にいいんでしょうか。嫁の務めが…。その…神様のお子を孕むことは出来ません」
村長がにっこりと咲真に笑みを向ける。だが目は笑っていない。
どうやらまずいことを聞いてしまったようだ。咲真はビクっと体を震わせた。
「お前が心配することではない。嫁の仕事は夫の身の回りの世話をすることが一番だ。この先の人生を狼神様に誠心誠意お仕えしていくことだけ考えればよい」
「はい…」
村長は不気味なほど口角をあげたまま続ける。
「そしてわかってるな?お前が狼神様の嫁にならなければこの村は滅びる」
滅びる――責任の重さに、咲真はぎゅっと拳を握りしめる。
「くれぐれも逃げ出すなど考えぬように。今まで育ててやった恩を忘れるなよ」
育ててやった、など恩着せがましい言葉にうんざりしながらも咲真は頭を下げた。
10年前――父と母が死に、神田家に奉公で引き取られてからの咲真の暮らしは過酷だった。ずっと、この家の奴隷として生きてきた。
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