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シンとする空気に気まずさを感じ、何か会話を見つけようと、咲真は聞いてみたかったことを口に出してみた。
「神様、今日は連れてきてくださってありがとうございました。あの…」
「なんだ」
「――狼神様は、なぜ人間がお嫌いなのでしょうか?」
返事は返らず、雨の音がやけに大きく聞こえた。
俺、調子にのって余計なことを言ってしまっただろうか。咲真が内心冷や汗をかいていると…
「昔――今日のように山へ下りた時に雨に降られ、この洞穴に来た」
「え…?」
「その時、同じように雨宿りをする人間の男と出会った」
狼神は静かに話し始めた。
自分の質問に答えようとしていると気づき、咲真は黙った。
「そいつはお前の村に住んでいた、史郎という男だった。とにかく底抜けに明るい男で、それから何度も山で会ううちに、友となった」
狼神は物語でも話すように、淡々と告げる。
「友がいる村を守りたくて、村が飢えることがないように加護を与えていた。守り神を引き受けた始まりはそこからだ」
狼神の思い出の中の史郎は、いつも笑っていた。
あの“約束”をした時も――
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