3話 神様の仕事

8/8
前へ
/120ページ
次へ
 シンとする空気に気まずさを感じ、何か会話を見つけようと、咲真は聞いてみたかったことを口に出してみた。 「神様、今日は連れてきてくださってありがとうございました。あの…」 「なんだ」 「――狼神様は、なぜ人間がお嫌いなのでしょうか?」  返事は返らず、雨の音がやけに大きく聞こえた。  俺、調子にのって余計なことを言ってしまっただろうか。咲真が内心冷や汗をかいていると… 「昔――今日のように山へ下りた時に雨に降られ、この洞穴に来た」 「え…?」 「その時、同じように雨宿りをする人間の男と出会った」  狼神は静かに話し始めた。  自分の質問に答えようとしていると気づき、咲真は黙った。 「そいつはお前の村に住んでいた、史郎という男だった。とにかく底抜けに明るい男で、それから何度も山で会ううちに、友となった」  狼神は物語でも話すように、淡々と告げる。 「友がいる村を守りたくて、村が飢えることがないように加護を与えていた。守り神を引き受けた始まりはそこからだ」  狼神の思い出の中の史郎は、いつも笑っていた。  あの“約束”をした時も――
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

767人が本棚に入れています
本棚に追加