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4話 昔話と滲む情欲
『なあ、例えばお前が俺の娘と結婚とかしたらさ、俺はお前の父親になるわけだし。死んでもずっとお前との繋がりが持てるよな?俺は人間だから生きてあと50年だしさ』
山の中腹、村を見下ろせる場所で、史郎は握り飯を頬張りながら隣にいる狼姿の狼神に言う。
狼神は伏せたような体勢で、いつものことのように、史郎を無遠慮に寄り掛からせていた。
『私はそんなことは望んでいない』
『俺は望んでる!お前と家族になれたら嬉しいじゃないか。俺の子じゃなくてもいい。村の娘で気の合う子がいればそれだって』
史郎はからっとした笑顔で続ける。
『実は今度、村の娘と祝言をあげるんだ。とってもいい子でさ。家族ができるんだ、俺』
『そうだったのか。よかったじゃないか』
『ああ、でも子供ができたら、頻繁にここには来られなくなるかもしれない。だから。お前にも家族がいたら寂しくないと思ったんだよ』
『余計なお世話だな』
『それにさ、俺に何かあってもお前がずっと村を守ってくれたら、心強いよ』
『まったく。調子のいい男だ』
そんな会話をしていた翌日だった。
山へ狩りをしに行った際、崖から足を滑らし、史郎は死んだ。あっけなく。
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