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狼神が淡々と話す昔話を、咲真はじっと聞いていた。
狼神は続ける。史郎が死んだあとどうなったのか。
史郎の突然の死に、史郎の父親は焦った。
息子の死の悲しみよりも史郎が死んだことで、神の恵みが無くなることを恐れた。
狼神との関係を続ける為に、史郎の父はあろうことか史郎と祝言をあげるはずの娘を差し出してきた。
“史郎と約束したでしょう?”と…
望んでいないと娘を突き返したが、村に戻ってきた娘を、村人たちは許さなかった。
再び狼神の元へ向かわされた山道で、熊に襲われ、娘は命を落とした。
「そんな…!」
あまりの悲しい事実に、咲真は思わず声を漏らした。
一息ついて、狼神は続ける。
どうしても“約束”を結びたい史郎の父親は、死んだ娘の代わりに別の村娘を差し出した。
懇願された為手厚く迎え入れたが、獣の嫁になることが堪えきれなかったのだろう、3日と空けずに逃げ出した。
それから幾度も、50年の月日を勝手に定め、村は娘を送り続けてきた。
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