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5話 体の熱と慰め
屋敷の厨房の隅に咲真はちょこんと座って体をまるめ、花鳥文様や、唐草文様、見たこともない美しい絵柄に見惚れながら、それが描かれている食器を丁寧に磨いていた。
「きれいだなあ…」
少しでも狼神様が召し上がるものが美味しくなればいいなと願いながら、咲真はピカピカに磨かれた食器を撫でる。
あれから週に1、2度。狼神に付き添って山を下ることもあれば、畑に出て狼神が育てている実の世話をしたり、蘭丸たち屋敷の使用人の手伝いをしている。
来た時と比べると狼神の咲真に対する態度は驚くほど軟化していて、優しすぎるほどだった。穏やかな日々に漠然とした怖さも感じながら咲真は毎日を過ごしていた。
優しさに甘えてはいけない、いつかいらないと言われてしまわないようにと、役に立ちたい一心で暇を見つけては仕事をするようにしていた。
「わあ、こんなところにいた!」
大声にびくっと反応して食器を抱きしめながら振り返ると、蘭丸がものすごい勢いで咲真の方へ走って来る。
「え、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないですっ!ダメですってばこんなことしちゃ」
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