1話 神に嫁ぐ夜

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 はあはあと荒い息をこぼしながら、吾郎は咲真の襟元を掴んで引っ張り上げた。 「お前なんか、一生俺の奴隷でいればいいのに…!ふざけやがって…!」 (耐えろ、耐えろ…これで最後なんだから…!)  咲真に対する吾郎の扱いは度を超えていて、咲真はいつか殺されるのではと恐ろしかった。なぜここまで自分を目の敵にするのか――。  震えながら目を瞑っていると、村長が慌てて駆け付ける。 「吾郎!何をやっている!もう出発だというのに!」  吾郎は大きく舌打ちをして、咲真から体を離す。村長に連れられて吾郎は部屋を出ていき、ほっと息をついた。  この村で一番必要のない人間だから――  そんなにショックはなかった。誰もが羨む役割であったら咲真が選ばれるはずがないからだ。選ばれた時からわかっていたことだった。  それでも、神様のお役に立てるのなら…必要としてもらえるのなら――。  屋敷の外に出ると、松明の灯りを持った村人たちが咲真を待っていた。皆いつもと違って咲真に笑いかけている。迷惑ものだった咲真をみんなが祝福している。松明に照らされて闇に浮き出る笑顔が何とも不気味だった。
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