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咲真は輿に乗せられ、村の屈強な男たちに担がれた。
神事服をきた村長が、シャン、シャン、と鈴のついた杖を鳴らし、輿の先頭を歩いて山道を登っていく。
――それから何時間経ったろう。
突然動きが止まった。
輿の中で外の景色が全く分からず、ここがどこかもわからない場所に下ろされた。
輿の外から村長の声が聞こえる。
「では咲真、しっかり務めを果たしておいで。くれぐれも逃げ出すことのないように」
そう言って村長達が去っていく足音が聞こえた。
シンとした空気に恐る恐る輿の外に出ると、目の前には鳥居が一つ。
ここが狼神様の住む場所?ここにいれば迎えがあるんだろうか。
そう思いながらきょろきょろと周りを見回していると、低く獣が唸るような音が聞こえた。
『凝りもせずまたやってきたのか』
どこからともなく声が聞こえる。
敵意を感じるような冷ややかな声だった。
狼神様の声だろうか?そう思っていると、目の前の鳥居の先に突然石段で出来た道が現れた。
この道を行けばいいのだろうか。恐る恐る鳥居をくぐる。
鳥居の先は白く霧がかったような、不思議な空間だった。
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