1話 神に嫁ぐ夜

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 空気もより透き通ったような気がする。  しばらく歩いて後ろを振り返ると鳥居はもうなかった。  ああ、もう帰れないのだ。そう思ったら少しだけ怖くなり、ぞくっとしたものが背筋から駆け上る。  1時間は石段を上り続けただろうか。  ろくに食べ物を口にしていない体は悲鳴をあげ、足ががくがくしてきた。  あとどのくらい進めばいいのだろうとやや絶望しかけた時、目の前に大きなお屋敷が見えた。 「ここが、狼神様のお屋敷…?」  立派な門構えに慄いていると、二足歩行で歩くネズミが出てきた。大きさは人間の子供くらいある。ちょこちょこと、こちらに向かって歩いてくる。  咲真の前で止まり、にっこりと無邪気な笑顔を向ける。 「はじめまして。お嫁さま。ぼくは神さまの使いの蘭丸です」 「はじめまして…えーと、俺は咲真です」 「咲真さま!よろしくお願いします」  神の使いを名乗る蘭丸はニコニコの笑顔の後、ハッとして悲しそうに目を伏せる。 「あのう…咲真さまには大変申し訳ないのですが、神さまからの言伝で…嫁はいらぬと。村に帰ってよいとのことで…」 「はっ?」
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