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空気もより透き通ったような気がする。
しばらく歩いて後ろを振り返ると鳥居はもうなかった。
ああ、もう帰れないのだ。そう思ったら少しだけ怖くなり、ぞくっとしたものが背筋から駆け上る。
1時間は石段を上り続けただろうか。
ろくに食べ物を口にしていない体は悲鳴をあげ、足ががくがくしてきた。
あとどのくらい進めばいいのだろうとやや絶望しかけた時、目の前に大きなお屋敷が見えた。
「ここが、狼神様のお屋敷…?」
立派な門構えに慄いていると、二足歩行で歩くネズミが出てきた。大きさは人間の子供くらいある。ちょこちょこと、こちらに向かって歩いてくる。
咲真の前で止まり、にっこりと無邪気な笑顔を向ける。
「はじめまして。お嫁さま。ぼくは神さまの使いの蘭丸です」
「はじめまして…えーと、俺は咲真です」
「咲真さま!よろしくお願いします」
神の使いを名乗る蘭丸はニコニコの笑顔の後、ハッとして悲しそうに目を伏せる。
「あのう…咲真さまには大変申し訳ないのですが、神さまからの言伝で…嫁はいらぬと。村に帰ってよいとのことで…」
「はっ?」
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