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柔らかな陽光が降り注ぐ温室。
色とりどりの花が咲いていたであろう、が…
記憶に残るそのシーンは、
柔らかな陽の光の色と縁取るかのような濃淡の緑、
そして白木のベンチの上で戯れる金色。
『…あ、ギル兄♪』
『ギル兄!!』
あどけない二人の天使が無邪気に戯れている光景に見惚れ、
二人に気付かれたのが嬉しくもあり、
自分が至高の空間に紛れこんだ闖入者のようでいたたまれなくもなり。
「ごきげんよう」とごく一般的な挨拶も口にできず狼狽える自分に、天使達はあどけなく、そして花がほころぶような笑顔で飛びついてくれた。
『ギル兄、おべんきょ、もう終わった?』
『もうあそべる?一緒にごはんは?おとまりも!』
舌ったらずな言葉と期待に見開かれた翡翠の瞳がニ対。
天使にはなれない、ごく普通の人間である自分を二人の天使が待ちわびてくれていた…
その気持ちが溢れてくるようで、思わず頬が弛む。
『アンドリュー様、アンリエッタ様。』
片膝をつき、翡翠のニ対に視線を合わせる。
『お待たせしてすみません。私、ギルバート、明後日までお側におります。』
翡翠のニ対が互いに向き合う。
『アン、あさってっていつまで?』
『アンリ、今日と明日とその次の日までだよ』
天使二人は男女の双子だが、翡翠の瞳だけでなく姿形はもちろん、声質や話し方、首をかしげる仕種まで何もかもが同じ─まるで鏡合わせのよう。
屋敷の皆が二人を間違えるのは日常茶飯事で、二人を間違えないのは天使達の祖父母であるご領主夫妻だけ。
今日と明日とその次の日…と三つ指を折ったところで『たりない!川あそびできても遠乗りにいけない!』と憤慨するのはお転婆なアンリエッタ様。
『アンリ、さきに遠乗りにいこう♪川あそびは次のお休みの方がきっと気持ちいいよ♪』とにっこり笑顔でなだめているのがアンドリュー様。
よく似た二人なはずだが、自分にとっては間違えようがない二人。
『アンリエッタ様、次の休日もお邪魔させてください。ぜひ、川遊びに行きましょう』
幼いながら眉間に皺を寄せ、大きな瞳からこぼれそうなものを堪えるかのように口を尖らせているアンリエッタに微笑むと、溢れるような笑顔が返ってくる。
『ほんと?やくそくよ、ギル兄』
『えぇ、約束します』
『ぼくも、やくそく♪』
差し出した右手の小指に、天使二人の小指が絡む。
『ギル兄、やくそく。ずーっと、一緒にいてね』
天使二人と交わした約束。
幼き日に交わした約束は、ずっと、心の中に…
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