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翌日、市場の最終日。
トバリは再び道具屋を訪れた。
錆び付いた剣は先日見た時と何ら変化はなく、刃物にも関わらず太陽の光を反射しない。
それでもトバリにとってたった一日しか経っていないが、恋人と会うかのように胸焦がれる想いである。優しく手に持つと、安堵の息が漏れる。
「本当に美しい……」
トバリは固唾を飲み、瞬きもせず剣の全てを眺めた。
「まるで恋人にあった時のようですね」
トバリは照れながら、わけを話した。
「いくつか聞きたいことがある、いいかな?」
武器の用途から作り方。素材の種類や名称、一般的な装飾から奇物まで、トバリの疑問は止まず、思いつく限りの質問をした。
道具屋の主人はトバリの質問に一つずつ、丁寧に答えていく。全ての質問に答えきる頃、既に空は茜色に染まっていた。
「なるほど、そこまで熱の入れようなら、貴方なら雑には扱わないでしょう。お売りしましょう」
「言い値で買おう」
「焦らないでください。熱心なのは分かりますがねぇ。近接武器は異端なのでは?」
道具屋の主人の話が尤もであったが、志を翻すにはトバリの血はあまりにも滾り、他の事には目もくれない。
「例え異端と蔑まされようとも俺はコイツに惚れた。名を付けてもいいか?」
「構いませんよ、そいつはもう貴方のものです」
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