突風の如く

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突風の如く

 トバリは王国主催の弓技大会に参加するため、数ヶ月の試行錯誤の上で完成した誰が見ても魅入る美しい弓と矢を魅了されたように見つめる幼い兄弟に無言で押しつけると、そのまま会場を振り返ることなく、道場に住んでいる兄のケインの元を訪れる。  そして、会の脱退を告げた。 「もう弓技には何の未練もない」 少年時代、トバリは代々伝わる弓技を片手で数えられる年齢の頃には神童とうたわれ、人々を大いに驚かせた。だが、それ以上に腕前は年齢と共に伸びず、道場では彼の弓技は弟弟子にさえ追われがちだった。  技を学び、両手で年齢が数えられるようになると、努力を重ねても自身の才能の惨めさを痛感するばかりだった。それでも弓を辞めなかったのは、道場で筆頭の腕前と人望で誰からも好かれている兄への憧れと嫉妬心だけが原動力となる。  しかし、今のトバリには長年心に巣食っていたやっかみすらも些細なことである豪語するほど、高揚していた。 「美しい!」  身体の底から、ふつふつと湧きあがってくる興奮にトバリは周りの目を気にせず叫ぶ。 「今まで積み上げてきた経験と努力を捨て、他人から蔑まされようとも、俺はあの武器と生涯を共にする!」  トバリを知る人から見た彼はまるで何かに憑りつかれたように映った。 「誰にも止めることなどできない!」  トバリを興奮させたのは見窄らしい、捨て値同然で売られている一振りの剣だった。
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