君が見ているのは

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「遠藤くんは、決まった?」 「うーん。二択で迷ってる」 「どれとどれ?」  美佳が遠藤くんの方に身を乗り出した。私は少し窓側に詰める。 「ほうれん草のスパゲティか、ナスのミートソーススパゲティ」 「あたしが決めてあげよっか?」  美佳がいたずらっぽく笑う。 「おー。決めてもらおうかな」  遠藤くんが微笑み返す。 「あたしはねー、ミートソースがいいと思う」 「それ、加藤が食べたいやつ?」 「そう!」 「ふーん。じゃあそれにする」 「え? ほんとにいいの?」 「いいのいいの。どっちも食いたかったやつだし」  遠藤くんがメニューをまとめて、窓際に戻した。 「みんな決まったみたいだし、押すね」  よく見もしないで呼び出しベルに指を伸ばすと、柔らかい感触がある。慌てて引っ込めて手元を見ると、遠藤くんの左の人差し指だった。あの細くて、白くて、長い指。 「あ、悪い」  遠藤くんが私の顔を見て言う。 「大丈夫。ボタンよろしくー」  わざと語尾を伸ばして、気にしていない風を装う。 「わかった」  遠藤くんが指先に力を込めると、カチッという音がする。 「ピンポーン!」  音が鳴る一瞬前に、宇田くんが声を張る。 「ちょ、やめなよ!」  美佳が笑い転げ、宇田くんはなぜか得意げな顔をしていた。正面に目をやると、遠藤くんは、頬杖をついて楽しそうに二人の様子を眺めている。  ちくり。胸の奥が痛む。
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