夏の思い出の片隅に

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「私の仕事はね、『こうだったらいいなぁ』っていう皆の願いを叶えることなの。お菓子ならどんなものでも作れるから、食べたくなったら、いつでもおいで」  ぼくは何度も頷いて、冷たくて美味しいアイスを口いっぱい頬張った。  ぼくはその後も、何度もお菓子屋さんを訪れては、色んなものを魔女さんに作ってもらった。星空を固めて作ったキラキラ光る冷たいゼリー、透き通った海の水を溶かして作った甘くてしょっぱい不思議な水あめ、天の川をシェイクしたミルクセーキ。どれもこれも美味しくって、ぼくはそのお菓子屋さんが大好きだった。  けれど、僕が中学校に入る頃には彼女の元へは通わなくなっていった。背伸びをしたくなるような年頃の僕には、そのお菓子屋さんがなんだか子どもじみているように思えて。次第に寄り付かなくなり、やがて大学へ行くためにこの土地を離れて、あのお菓子屋さんのことはすっかり忘れてしまっていた。
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