灰色の月

1/1
前へ
/1ページ
次へ
私の世界に色彩は無い。 街も、人も、太陽も、全て同じ色に見える。薄ぼんやりとした灰色だ。 それを不自由や、不便だと思った事はない。 ましてや不幸だなんて考えた事も無かった。 けど、世界はそうじゃないらしい。 私には一色に見えるこの世界には、赤や青、黄や緑といった様々な色彩で溢れているらしい。それが見えないなんて可哀想だと、様々な人に言われた。 私は可哀想なのだろうか。 色が感じられない事が、それほど駄目な事なのだろうか。イケない事なのだろうか。 悲観しないと、いけないのだろうか。 私は悩み、考え、空を見上げた。 灰色の濃淡が広がっている。中でも一際明るく見えるのが太陽なのだろう。 私の目には限りなく明るい灰色に見えるあの太陽は、他の人には一体どう見えているのだろう。 夜が好きだ。 明るい時間はすぐに目が痛くなるが、暗い夜は痛くならない。街は相変わらずアンニュイな喧騒に戯れているが、それも何だか昼間より素敵に見える。 夜の海が好きだ。 心地いい夜風と、連なる波の音。 それに、綺麗な月明かり。 月の色は感じれる。だから私は、月が好きだった。 パパとママは画家をやっている。 二人とも有名な画家、自慢の両親だ。私は二人の事が大好きだった。 でも、私は二人に捨てられた。 今頃、家ではパパとママ。そして私と同じ名前の女の子が、一緒になって笑い、ご飯を食べている。 その光景はきっと、絵にするなら太陽のような、私には感じれない色合いで描かれるのだろう。 夜の海はまるで私の心のようだった。 冷たい夜風と、今にも途切れそうな波の音。 月は……綺麗だ。ずっと、綺麗。 海べりで座っていると、段々眠くなってきた。夢に微睡む私は、波の音に任せ、目を瞑る。 私の世界に色彩は無い。 けど、可哀想でも、不幸でも無い。 でも、この灰色の世界は何処までも、私に冷たかった。 海の水より、ずっと。ずっと。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加