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私の世界に色彩は無い。
街も、人も、太陽も、全て同じ色に見える。薄ぼんやりとした灰色だ。
それを不自由や、不便だと思った事はない。
ましてや不幸だなんて考えた事も無かった。
けど、世界はそうじゃないらしい。
私には一色に見えるこの世界には、赤や青、黄や緑といった様々な色彩で溢れているらしい。それが見えないなんて可哀想だと、様々な人に言われた。
私は可哀想なのだろうか。
色が感じられない事が、それほど駄目な事なのだろうか。イケない事なのだろうか。
悲観しないと、いけないのだろうか。
私は悩み、考え、空を見上げた。
灰色の濃淡が広がっている。中でも一際明るく見えるのが太陽なのだろう。
私の目には限りなく明るい灰色に見えるあの太陽は、他の人には一体どう見えているのだろう。
夜が好きだ。
明るい時間はすぐに目が痛くなるが、暗い夜は痛くならない。街は相変わらずアンニュイな喧騒に戯れているが、それも何だか昼間より素敵に見える。
夜の海が好きだ。
心地いい夜風と、連なる波の音。
それに、綺麗な月明かり。
月の色は感じれる。だから私は、月が好きだった。
パパとママは画家をやっている。
二人とも有名な画家、自慢の両親だ。私は二人の事が大好きだった。
でも、私は二人に捨てられた。
今頃、家ではパパとママ。そして私と同じ名前の女の子が、一緒になって笑い、ご飯を食べている。
その光景はきっと、絵にするなら太陽のような、私には感じれない色合いで描かれるのだろう。
夜の海はまるで私の心のようだった。
冷たい夜風と、今にも途切れそうな波の音。
月は……綺麗だ。ずっと、綺麗。
海べりで座っていると、段々眠くなってきた。夢に微睡む私は、波の音に任せ、目を瞑る。
私の世界に色彩は無い。
けど、可哀想でも、不幸でも無い。
でも、この灰色の世界は何処までも、私に冷たかった。
海の水より、ずっと。ずっと。
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